2011年07月27日

「脱原発」論争の行方

7月中旬の菅直人総理の発言で、あらためて大きな問題になった「脱原発」論争がやや下火になってきたような気がする。
と言っても福島原発の事故が安全に収束する見通しが立った訳ではない。
それどころか、肉牛餌の稲ワラから、高濃度の放射性セシウムが検出され、汚染されたと見られる牛肉は既に全国各地で販売されていることが分かり、大きなニュースになった。
少しくらい食べても、人間の健康にはほとんど影響ないと言われているが、目に見えない放射能汚染は、家庭菜園の腐葉土などへも広がっている。

菅総理の発言は、唐突で事前に十分議論した形跡がない場合が多く、今回もそうした批判を浴びると総理は「個人的な考えだ」と後退した。
こうした一貫しない姿勢がまた批判の的となり、政治問題ともからんで混迷の度を強めているのである。

言うまでもなく「脱原発」賛否の対立は一本化を図ることが出来そうにないくらい激しい。
例えば、原発容認論者は、このままでは来年中に定期検査等で全国の原発が運転停止追い込まれることに危機感を募らせている。
理由は、原発を稼働させないと、日本のエネルギーのコストが高くなり、製造業は国際的な競争力を失うため、海外に出て行かざるを得なくなる。
また、コストの高い太陽光や風力などの再生可能エネルギーが原子力の代わりを担うことは当分考えられないからだと主張する。

その一方で、、福島原発事故の処理を見る限り、今の技術力では、原発の制御が極めて難しいこと、また「原発はトイレのないマンション」とも言われるように、放射性廃棄物の処理がきちんと出来ていないことなどを知るにつれて、原発依存に懐疑的になり、「脱原発」を主張する人がますます増えていると見てよいであろう。

しかし、この論争は、どんなに対立しても、問題点や必要なデータを整理して、冷静に活発化させ日本のエネルギー対策をはっきりさせる必要がある。
今の段階では、「脱原発」とは、どういう定義なのかがはっきりしない。
今すぐ原発の運転を中止するのか、何年かたったところで、原発依存をやめるのかが分からないまま議論されている。
原発容認論が多い経済界でも経済同友会は、「縮原発」の方向を主張しており、このような知恵の出し方が重要になると思う。

また、原発のコストについても、短期の建設費や維持費だけでなく、2~30年かかるとされる閉鎖のコストや、放射能汚染が広がった場合の賠償等の経費まで予測すると総コストはどのくらいになるのかの計算が示されていない。
なによりも退任の意向を表明しながらポストに固執している菅総理が問題なのかもしれないが、それはそれとして、この問題は、私たち一人ひとりがしっかりした見解を持ち、議論に参加するようにしなけれなければならないと考える。



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Posted by hamachan at 14:39

プロフィール
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浜野崇好(はまのたかよし)

経済コラムニスト



1935年6月宮崎市生まれ



NHK経済記者・解説委員を経て、宮崎公立大学学長・理事長。

退任後、フリーの経済コラムニストとして活動。



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