2012年07月31日

映画「普通の生活」を見て

この映画は、いくつかのボランティア活動を続けながら、映画作りをしている北海道の吉田泰三という人が撮影・監督を務めた80分間のドキュメンタリーで、ボランティア活動推進団体の「ネイバーズ」の制作となっている。
内容は、3.11以後の福島の人々それも、家族とこどもを放射能から守る最前線の立場にいる母親に焦点をあてたインタビュー中心の映画である。

7月の終わりに、この映画が北海道以外では初めて、九州の宮崎市で上映されたのである。上映会は、地元の「MLBA(宮崎女性起業家協会)」という団体が企画し宮崎公立大学講堂で開催された。
「普通の生活」という題名は、放射能から生命を守る闘いを強いられ、「普通の生活」が出来なくなっている人々と単純に受け止めていた。
ところが、それだけでなく、放射性物質に脅えながら日々迷い、葛藤し、泣き笑いするのが「普通の生活」になっているとも言えるようである。

映画の中に出て来るのは、例えば、若夫婦を子に持つ福島県内の母親が、県外の若夫婦に「里帰りするな」と強く拒む場面である。
言うまでもなく、妊婦や赤ん坊が放射能に汚染されるの防ぐためで、今、国などから示されている安全の基準は信じられないと言うのである。

また、福島県内のある幼稚園の園長は「こどもは外での遊びを通して体も心も成長できるのに、その権利を奪われている」と語る。
現実に外遊びをしていないこどもは、体力に影響が出ているという指摘もあった。
また、日を決めて、定期的に放射能汚染の心配がない場所までこどもを連れて行き、外遊びをさせる母親も登場していた。

こうした苦労をしながらも、母親たちは、過激ではなく、ただ静かに我慢強く耐えているという印象であった。
私たちは、ごく一般的な定義で「普通の生活」が出来なくなっている人々がいることを忘れてはいけないとつくづく思う。

首相官邸前では、毎週金曜日に原発再稼働に抗議し、脱原発を求める行動が恒例化しつつあると伝えられる。
「普通の生活」を否定されている人々のことを考えれば、もっともな気がする。
福島のような原発事故が2度と起こらないという保証もないのである。

ただ、気持ちとしてはそうであっても、原発維持を主張する人々が指摘するように太陽や風水力利用の自然エネルギーでは、原子力の代わりは務まらないものなのか、大型の蓄電装置開発や節電のためなどの技術開発は、見通せないのか、天然ガスをもっと安く入手する方策はないのか、といった理性的な視点からの長期的なエネルギー論議をもっと活発にする必要もあると思う。



  


Posted by hamachan at 17:23

2012年07月14日

「日本再生戦略」に思う

政府は7月11日、首相を議長とする国家戦略会議を開き、2020年までの成長戦略を盛り込んだ「日本再生戦略」の原案をまとめた。
内容はインターネットでも公表している。
再生戦略の狙いの一つは、消費増税の法案が衆議院を通過し、参議院での審議が始まっているが、消費税率を8%に引き上げる2014年4月の時点で景気が停滞しないような成長戦略を打ち出すことにあるようだ。

また、日本の人口は、急速な少子高齢化で縮小傾向にある。
その一方で中国やインド、それにアジア諸国では、いわゆる中間層が急増すると予想されており、こうしたアジアの活力を取り込む政策や戦略を政府は急がなければならないという課題もある。

この原案によると、2020年度までの平均成長率は名目で3%、実質では2%を目指している。
そのうえで社会の多様な主体が創造的な結合によって、新たな価値を生む「共創の国」というビジョンを掲げ、震災・原発事故からの復活加速のほかに、デフレ脱却の道筋、グローバル化、地域化の3つを基軸に据えている。

具体的には、11分野の成長戦略と38の重点施策に取り組むことにしており、医療・介護や健康関連分野で2020年度に50兆円規模の国内市場を創設する、経済連携協定(EPA)の締結交渉を加速し、締結国との貿易比率を現在の20%弱から80%に引き上げる、アニメなど日本の文化を輸出するクールジャパンの海外売上高を現在の2兆円余から17兆円に拡大する等々、各分野について、意欲的な目標値を示している。

しかし、各紙が社説などで指摘しているように、いかにも総花的で焦点が絞られていない。
また、スローガンや数値目標ばかりが目立ち、どのようにして課題を乗り越えて実現していくのかが見えない。
農業分野だけ見ても、貿易自由化の加速で国内農業が弱体化すると心配されるのに、平地の1戸当たりの農地面積を2020年度を待たずに20~30㌶に拡大するとしている。
一体どのように進めるのだろうか。

より重要なことは、民間部門が政府の戦略に沿って、成長エンジンを起動させるのかどうかである。
民間の活力が引き出せないと、意欲的な目標も絵に描いたもちになってしまう。
中長期的に民間の創意と工夫が生かせるような規制改革等の施策が必要ではないだろうか。

私どもにとって目が離せないのは、国会でも消費税増税の審議で取り上げられたという増税に伴うバラマキ財政の復活である。
今回の消費税増税は、社会保障の財源確保に大きな目的がある。
それなのに表向きで成長戦略の名を借り、増税分を復興事業などの公共投資に充てることは許されない。


  


Posted by hamachan at 14:52
プロフィール
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浜野崇好(はまのたかよし)

経済コラムニスト



1935年6月宮崎市生まれ



NHK経済記者・解説委員を経て、宮崎公立大学学長・理事長。

退任後、フリーの経済コラムニストとして活動。



クローバー浜野崇好の

オフィシャルサイト

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